蒼の風に抱かれながら闇より深き黒髪を靡かせ少女は舞う。

 

如何なる色にも染まらぬ白翼を羽ばたかせ。

 

如何なる色にも染まる白翼を羽ばたかせ。

 

古よりの罪罰を御霊に宿し少女は空を翔け続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦惑星郡所属中央惑星。

この惑星は四つの地上大陸アーシルーン、キシュメリナ、スメガミ、テルバルアが点在しており、各大陸は連携を取り合い各々の大陸を治めていた。惑星全体の管理はアーシルーンの中央行政が取り仕切っている。

広大なる海は古くから住まう人魚族のマリークス家が治め、文字通り波風が立たぬようにしている。

二つの衛星メリとアムが淡く輝き見守る惑星。

それが中央惑星である。

 

星誕歴4233年。

 

中央惑星で最も広大な大地を広げるアーシルーン大陸。惑星全体を管理する統括する中央行政区域が置かれているこの大陸は中央惑星の人口の半分が集中しており他の大陸に比べ物流が激しく、実質中央惑星の経済活動の半分はこの大陸が占めているといっても過言ではないだろう。

そのアーシルーン大陸の中心部から離れた場所に一つの学園がある。

不死鳥学園初等部。

幼等部から高等部までの一貫式であるこの学園は中央惑星に創立されている学園の中では最古参の類に入る。名の由来は学園を創立したのが不死鳥族だったからであると同時にどの様な状況下に陥っても生徒を絶対に見放さない教育理念から付けられた名でもあった。

不死鳥学園初等部校舎の屋上。

穏やかに吹く春らしい暖かな風が空に浮かぶ白雲を流している。湿度が混じっていないためであろう春独特な草花の匂いが風と共に運ばれていた。

時刻は十五時四十分。六時限目授業が終了し、部活動が始まる放課後の時間。そこには二人の少女の姿があった。

二人の少女が身に纏うセーラー服の基本色は白。襟とスカート、手首は青。鳥を象った校章の色は一学年の証である橙。この不死鳥学園の指定女子制服である。

二人いるうち、一人の少女は薄緑色の瞳で長く伸びた金色の髪を風に遊ばせている。もう一人の少女は真紅の瞳を持ち黒く艶やかな髪を手で押さえている。黒い髪の少女は有翼種である不死鳥族であろう白い翼を背中から生やし、特徴的な細長い三つの飾りが付いたネックレスを首から下げている。

「ユウキの槍撃速度は見切れる? 入り込まれたら避ける事が出来ないんだけど」

金色の髪の少女が黒い髪の少女に尋ねた。少女達が交わす会話は今日の四時限目に行われた生徒同士の戦闘訓練の話である

「左腕に注目すれば大丈夫だと思いますよ。だいたいルナ、接近されても弓術使えるじゃないですか」

苦笑する黒髪の少女にルナと呼ばれた金色の少女は図星を突かれたためか頬を膨らませると地面に置いてある自分の鞄を手に取った。

「ティリアスは最近魔法攻撃と闘気攻撃を止めて剣撃戦メインだよね。今度手合わせしてもらおうかな、ユウキやリュウ共戦わないといけないし」

「わたしで良ければいつでもお付き合いしますよ」

ルナの言葉に優しげな笑みを浮かべるティリアス。ルナとティリアスは幼等部に入学する前から友人としての付き合いがある。最初に会ったのはティリアスの姉であり惑星フェニックス第一皇女エスターナ・フェニックスの誕生パーティーの時、特に話す相手もいなくバルコニーから空を見上げていたティリアスに話しかけたのがルナだった。

二人とも身分上は皇族。一惑星を治める皇家の娘であるが、その身分が通用するのは自分達の両親がいる本星だけであり中央惑星での身分は一学生一般市民である。

中央惑星にいる時のルナの名はルナ・シルファー。五人姉妹の四番目の皇女。連邦惑星郡の双子惑星であるゴールドレクスを治める皇家シルファー家の娘。皇族名はルーメリア・ナルシェス・シルファー。

中央惑星にいる時のティリアスの名はティリアス・フェニックス。四人姉妹の三番目の皇女。連邦惑星郡惑星フェニックスを治める皇家フェニックス家の娘。ティフォーリス・アスタナ・フェニックス。

普通の一般の人間からすればどうして中央惑星に来たのだろうと感じるはずだろう。

彼女達なら一生を城の中で暮らせる。勉学は専属の教師に習い、趣味に興じ、自身と民を護るための戦い方を学ぶ。危険が無い安定した暮らしが生まれた時より約束されている。

確かにルナの家はそうなのだ。実際ルナの下の妹と一つ上の姉は城で勉強をしている。

一方、ティリアスの家はルナの家とは違った。上の二人の姉も下の妹も全て外の惑星、中央惑星での学業を命じられている。上の二人の姉は同じ学校の初等部におり、下の妹も現在幼等部の三年生。来年にはティリアスの妹も初等部に上がってくる。

ただ、ティリアスは他の姉妹達とは違い城の中にいても良いと母親から提案を受けていたがティリアス自身はその提案を断り自分から城の外で勉学に勤めると逆に母親に告げ、この学園に入学した。

「お腹も空いたし夕焼け前に帰っちゃおう」

「そうですね、少しだけ肌寒くなってきましたから早めに帰ったほうが良いかもしれません」

意見が一致した二人は屋上から校内に続く扉を開けて階段をテンポ良く下りながら正面玄関に向かう。エレベーターは身体に障害を負っている生徒が使うため障害の無い二人は乗らない。

階段を一段一段下りながらティリアスは無意識に胸に掛かっているペンダントを手で触れる。冷たく硬質感のあるペンダントは夕の日の光が差し込む校舎の階段で少しだけ光っていた。

「夕飯はどうする? 今日はメカオいないでしょう?」

正面玄関にたどり着き上履きから下履きに履き替える最中にルナはティリアスに今日の夕飯に付いて尋ねた。

「昨日買って来た干物があるのでそれを焼きませんか?」

「そうだね、後は煮物と汁物を作れば完璧だね」

寮生には自炊が求められており夕飯はもちろん朝食昼食と全てを自分達で作らなくてはならない。無論外食が禁止と言うわけではないので、作る手間の掛からない外食をしても良いのだ。自炊するよりも食費が増してしまう欠点があるのは否めない事ではあるが。

ティリアスとルナの二人は城で徹底的に自炊方を教えられ高い技術力が要求される料理、例えばコース料理などは作れないものの普段の生活に必要な調理技術は既に身に付けている。

そのおかげで二人は毎日料理当番として同居する三人分の食事の世話を任せていた。

「ばいばいールナさん、ティリアスさん」

クラスメイトの女生徒が二人に挨拶をする。

「ばいばいー、また明日ねー」

「さようならー」

二人はクラスメイトに挨拶をすると校門を出る。校門を出てすぐ左に道を曲がり街灯と街路樹が植えられている道を歩く。人通りは極端に多くはないが時刻が夕方に入りかかっていることもありそれなりにいる。空を見上げれば飛行している人間もおり、周りには自転車に乗っている人間もいる。穏やかな喧騒に包まれた平穏な街の風景。

「空を飛んで帰りたいですけど今日は無理ですね」

「お姫様が下着見せて帰ったら大問題だよ」

ティリアスは背中の翼を使い飛行して帰宅でき、ルナも風の魔法を使って飛ぶ事はできるが生憎今日は下着を隠すために着用するスパッツ等を履いていないため、空を飛んで帰宅は出来ない。

「ティリアスの翼は触り心地良いなぁ」

ルナは空を飛んで帰れないのならせめてといった感じで隣を歩くティリアスの翼に触れる。ティリアスはそれに対し嫌な顔をせず微笑みと共に言葉を返えした。

「ふふふ、私の翼は他の人達と同じ翼ですよ」

少しだけ翼を動かすと柔らかく温かな白い翼がルナの頬を撫でる。

「そうかな? 他の人と違う気がするけど……」

そこまで言いかけルナは足を止めた。ルナに続きティリアスも足を止める。

いつの間にか周囲から人の姿は消えていた。

ルナが言葉と共に深く溜め息を吐いた。

「加護結界出ちゃっているよ。魔物だね」

魔物の出現。それは差して珍しい現象ではない。

中央惑星は特に光神の加護が強いため魔族が出現した際にこの加護障壁が張られる。他の惑星では魔物が出現してもこの障壁が張られないためそのまま魔物との戦いに突入し、戦いにより周囲の民家に被害を及ぼしてしまう事も多々あった。

人間や機人族なら加護結界から逃げられるため逃げても構わない。加護結界は魔族の力量にもよるが展開されてから一定の方向に約五百メートルから一キロメートル以上走れば外に出られる仕組みになっており加護結界内で魔族と戦うのも逃げるのも自由だが、無論殺されたらどうにもならないため自分の力量を正確に知っていなければならない。

「魔物……ここ一週間は見なかったんだけどね」

今、二人の目の前には中心に球体を持ったゲル状の不定形生物がいる。

一般名称スライム。魔族の類を区分する魔族ランクはSからDまでいるうちのD。大きさは彼女達と同じくらいだろうか。

生理的に悪い動きで迫ってきたスライムを見て二人は目を細める。

ルナはため息をつくと手にしていた鞄を地面に置くと目の前に長弓を出現させ左手に持つ。右手には数十本の矢が収められている矢筒が握られていた。

一方のティリアスも鞄を地に置き、軽く深呼吸をした。

「ロングソード使う?」

「火炎魔法だけで十分だと思います。わたしが身体を焼きますのでルナは中心部の核に矢を撃ち込んでください」

ルナに答え終えるとすぐさまティリアスは両手に炎を宿す。最初は手の平で小さく燃えていた炎は一瞬で勢いと明るさを増し、彼女の手を覆うほどの大きさにまで膨れ上がった。

獲物が取る対決姿勢をスライムの方も何も行動しないと言うわけではない。大抵の魔物は人間を好物とし、スライムもまた人間の肉を好物としている。スライムの目標がティリアスとルナ、二人の血肉だと言う事は明白である。

ゲル状の身体が不気味に動きティリアスとルナ目掛けて襲い掛かる。スライムに知能と感情は無い。獲物を襲い、貪り、繁殖する行為しか行わない単純な生物である。

「ルナ、右側からお願いしますね」

「りょうかーい。右から中心部を狙って撃つね」

二人は左右に素早く動きスライムの体当たりを回避するとティリアスは左側に、ルナは右側に回りこむ。

「焼炎の弾よ、我の敵を焼き尽くしたまえ。フレイムボール」

右手を振るうと十発の炎の弾丸が放たれスライムの左側を焼き。さらにティリアスが左手を振るうと再び十発の火炎弾がスライムの左側を深く焼いた。スライムは全身を炎で焼かれ酸味を含んだ異臭を放つ。

魔法。機人族と魔導転換者以外なら大抵誰でも使える力。大気中に漂う魔法粒子マナを呼吸と共に己の身体に吸収し自身が所持する属性を練り込み外部に放出する行為の事である。

魔法の形式は様々ある。ティリアスの放った炎の弾丸は火の属性を付加し、攻撃的な形状を模したものである。攻撃魔法の玉は最も初歩的な形状であり、形状が複雑化もしくは形状が無い物が最も難しいとされている。

ティリアスの放った魔法はフレイムボールと呼ばれる初歩的な火属性の攻撃魔法。火の属性さえ持ちえているなら万人がすぐに扱える程度のものである。

「止めっと」

ルナが声を出した瞬間、風を切る音と共にスライムの中心部は矢で射抜かれた。

番える間も狙いをつける間もないと普通の人間なら思うだろう。ルナは初等部の中では突出した弓の使い手であり、彼女が所属している弓道部では弓を巧みに扱う皇女という意味を込めて弓姫と呼ばれている。

矢筒から矢を抜き、番え、狙いを付けてから射る。ルナはこれらの手順を一瞬で行なえる。幼い頃から城で修練した賜物であろう。

中心の球体を矢で射抜かれたスライムの身体はゲル状から液状に変化し、球体は地面に落ちた。スライムの中心球体は身体を構成する核であり、この部分に損傷を負えばスライムは死ぬ。

「こんな物だね。この球体はどうする? 交換所に持っていけば少しぐらい換金してもらえると思うけど」

疲れた様子を微塵も感じさせずルナは言う。手にした弓は消え、背中に担いでいた矢筒も消えた。

一方のティリアスは無言でゆっくりとスライムを形成していた球体に近づく。身体であったゲルはすでに地面に吸い込まれて地面に転がっているのは矢が突き刺さった球体だけある。

そっとティリアスが手を触れると少しだけ温もりがある。スライムが数分前まで生きていた証。

「……このままにしていいですか?」

自分とティリアスの鞄を持ったルナは笑みを浮かべる。

「言うと思った。私はそれでも構わないよ。まだお金には苦労していないからね」

「ありがとうございます。ルナ」

昔からの付き合いであるルナはティリアスが取る行動が大体分かっている。

ティリアスは殺した魔物を交換所に持っていかない。

交換所とは殺した魔物の部位を持ち込み換金してくれる場所である。殺した魔物の部位は魔法や魔力を込めた道具を作るのには最適であり交換所に持ち込まれた部位はさらに専門の業者の手に渡る。

業者から店が材料を仕入れそれを加工して道具にする。道具はそのまま客の手に渡る。

今、ティリアス達が殺したスライムの球体部分は恐らく500メルクにはなる。矢による殺傷もこの程度では減額されないだろう。

金が欲しくて魔物を殺す者もいる。それが悪い事だとティリアスは考えていない。クラスメイトにもいるし、彼女達の同居相手の一人であるリュウ・アルカードもそうして金を稼いでいる。

「それじゃあ行こう」

ルナとティリアスが一歩前に進むと周りには人が歩いている。

二人が加護障壁から抜け出した証拠であった。

学園から寮までは歩いて約十五分から二十分ぐらいかかり、遠くも無く近くも無い距離である。通学路には中規模な町があり、学生達も二人の通る街中は夕方特有の喧騒に包まれていた。

ティリアス達同様学校帰りに友人と会話をする学生達。今日の晩御飯についての会話をする母親達。いつもと何も変わらない風景

帰宅する二人の前に不死鳥族の女性が歩いてきた。

別に他人が前から歩いてきても不思議にはならないがその女性は特別だった。

美しく流れる真紅の髪は腰まで届き漆黒の瞳はまるで全てを吸い込んでしまいそうである。身に纏っているのはこの世界では法衣と呼ばれる魔法を専門で扱う者が好んで着る服。

服は自分を守ってくれる。もちろん完璧に守ると言う保証は無いが。

ティリアスやルナの着ている学生服も特殊な繊維で作られており、ある程度の物理攻撃や魔法攻撃は遮断できる。

雀の涙程ではあるが。

女性の着ている法衣は瞳同様漆黒の色に染められている。

ティリアスは女性とすれ違う瞬間に瞳を見られた気がし、ハッとした。

「どうしたの?」

「今、あの人に見られた気がして……」

ティリアスの言葉にルナは振り返って女性の姿を見る。女性は普通に二人を通り過ぎて行ってしまった。

「美人だよね。それにあの翼ってエレメンタルウイングでしょ? 闇属性なんてはじめてみたよ」

エレメンタルウイング。それは属性を持った翼の名称である。

不死鳥族の翼の色は純白でありその色が普通でありティリアスの翼の色も普通である。その不死鳥族の中で稀に色が付いた翼を持つ子供が生まれる時がある。

白翼が普通である中、色翼を持った存在として生まれるエレメンタルウイングを持つ者達は過去の時代においては不吉の象徴や神託の象徴として崇められたと伝承には記されていた。

エレメンタルウイングを持つ者達はその色に対応した属性が得意である。薄赤色の翼ならば火属性に、薄緑色の翼なら風属性が、今しがた通り過ぎた女性ならば闇属性を象徴する漆黒の翼のため闇属性を操る事に長けているという事になる。

「気のせいみたいです」

ティリアスはそう考える事にした。偶然目が合った可能性のほうが意図的に見られた可能性よりも高いと思ったからである。

「それじゃあ早く帰ろうか」

二人は再び自分達の住む寮へと歩き始めた。

学生寮に住む生徒は学園に通っている生徒の半数程であり入居者数は少なくない。入居者の八割は中央惑星出身者ではなく他惑星出身者である。その理由としては他惑星が出身であり、通うのに支障が出るからだ。

毎朝、惑星通しを結ぶ星間航宙船で通うのは家庭にも生徒にも金銭的に精神肉体的に大きな負担になる。その負担を軽減しようと学園には必ずと言って良いほど学園寮が完備されていた。

不死鳥学園初等部寮は五階建てで、寮の管理は専属の機人族アンドロイドがやってくれる。

寮に入ったティリアス達は自分達の住む三階の寮室に向かった。窓口にいる

「エレベーターは行っちゃったね」

ルナの言うとおりエレベーターは既に二階を過ぎそのまま三階まで行ってしまった。

「階段のほうが早いですよ。そっちで行きましょう」

階段は五つあり、そのうち三つが普通に使える階段。残りの二つは非常階段になっている。

三階までの階段を駆け上る事は別に二人にとっては苦痛でも何でもない。

「おかえりなさいー」

同じ階にいる少女があいさつをしてきた。私服を着ているが不死鳥学園の生徒だ。

「ただいま帰りました」

ティリアスとルナは軽く会釈して、自分達の部屋へと向かう。

寮のキーは生徒認識カードで開く事が出来る。ティリアスは生徒手帳から認識カードを抜き取るとカードを読み取るスロットに差し込む。

電子音とともに寮室のドアが開き、二人は部屋の中に入った。

玄関で靴を脱ぎ二人はダイニングルームに入る。

寮室は玄関から入るとトイレがあり、風呂場がある。そして食事をするためのダイニングルームと料理を作るためのキッチンルームが完備されているのだ。

そして、ダイニングルームから各人の個室へ入ることが出来る。

普通の寮室は個室が二つから三つある程度なのだが、この寮室は個室が六つもある普通よりも大きく間取りされた寮室だった。

「着替えて宿題でもしようかな。ティリアスはどうする?」

「私も宿題を先に済ませようと思います。難しい問題がありましたので」

ルナは片手を挙げてドアにルナと書かれたプレートのドアを開けると中に入っていった。

友人が部屋に入ったのを見てティリアスも自分の部屋のドアを開き中に入る。

ティリアスの部屋には本棚にクローゼットとベッド。それに机。寮部屋の基本的な壁紙は白。ベッドのすぐ横の壁には夕日を背に飛び立つ鳥たちのポスターが貼られている。初等部に入学する祝いだと叔母から贈られた物である。

机の横に付いているフックに鞄をかけるとティリアスは机の上に置かれてある三つの写真立てに視線を向けた。

一つ目は豪奢なドレスを身に纏い黒髪を下ろした少女の写真。少女は微笑みを浮かべ、手には大中小色彩豊かな花々を溢れんばかりに持っている。

二つ目は四人の少女と女性の写真。金色の髪を頭の後ろで纏めティアラを身に付け、威厳を感じさせるドレスを着た女性。その周りには藤色の髪を下ろした少女、肩口まで黒髪を切った少女、赤い髪の少女、そして先程の黒髪を下ろした少女が立っている。

三つ目は森の中で撮影された写真。前の二つに写っていた少女を中心とし、左には黒い体毛を生やした三つ首の魔犬、右には頭部に角を持ち背から翼を生やした白馬がおり、太く丈夫な木の枝には腕から翼を生やし鳥の足を持つ女性が柔和な表情を浮かべている

ティリアスは写真を眺め微笑みつつ制服のリボンを解き、着替えを始めた。

寮は基本的に二人や三人暮らしが普通なのだ。

もちろん何か問題が起こってはいけないので同居する相手は同性である。普通は。

「え? 明日訓練戦闘をするんですか?」

夕飯の片づけをしているティリアスに同居しているリュウ・アルカードは話しかけてきた。時刻は八時を過ぎ、テレビではクイズ番組がやっている。

幼馴染のユウキ・ランフォードは今日の宿題をするために夕食が終わるとすぐに自分の部屋に戻っており、今この場にはいない。

「明日、部活が無ければの話だよ。自分の力を測りたいからさ」

リュウも皇族である。惑星ドラゴンヘッドの第二皇子で、兄や姉とは別にこの学校に通っている。皇族名はリューベルド・ウリアル・アルカード。

黒い髪と同じ黒色の瞳からは力強さが感じられる。

色々問題児なのだが。

「そう言えば、リュウって宿題したの? 今日の宿題は結構難しかったんだけど」

キッチンで食器を洗っているルナがリュウに宿題の話しをする。

今日、出題された宿題は魔力と魔法制御力。そして、国語。

ルナが難しいと言っているのは魔法制御力を応用しないと魔法制御力問題が解けないのだ。

「やってないな。面倒臭いんだよ、宿題は……」

リュウはそれだけ言うと頭を掻きながら自分の部屋に戻っていった。視線でティリアスはリュウの部屋の扉を見送った。

「私さ、絶対にリュウは高等部に行ったら留年すると思う」

食器を水と洗浄油で洗いながらルナは呟く。それは危惧か嫌味か。それともどちらも含んだ言葉なのだろうかティリアスには判断が付かなかった。

「でも、リュウは前の小テストの時に悪い点数取らないんですよね」

テーブルの上の皿を片付けながらティリアスは答える。

この寮室では男女が共同で生活している。

理由は簡単で四人の親達が纏めて放り込んでおいてくれと学校側に頼んだためだ。そして警護と監査のために機人族のメカオを置いている。

監査役とは言ってもティリアス達の親友なので普通に同居している感じである。そのメカオは現在、機人族の義務である週数回の基地勤めのため一昨日からこの寮室にはいない。

スポンジに天然洗剤を付け、汚れた茶碗を洗う。今日も何も無く無事で終わったとティリアスは思いながら夕食の片づけをルナとともに続けた。

色鮮やかな水晶、様々な調度品に囲まれた部屋。赤と金色の刺繍が刻み込まれた絨毯が引かれ、木質の壁は紅一色に塗られておりその場に居合わせる

豪華ではあるが、どこか妖しさを感じさせる部屋。その部屋の中心に置かれたウッドテーブルを挟み二人の女がいた。

二人いるうち一人の女性は窓から夜の闇が広がる外を見ている。

もう一人の女。体格から言えば少女だろう。少女は女性の背中をジッと見つめている。

窓から外を見る女は真紅の髪に黒い瞳、背中から黒い翼を生やしている。身に纏っている黒のイブニングドレスのスリットから覗く白い足は男性ならすぐに魅了するであろう。

その女性の肩には一体の人形が腰掛けている。頭の後ろにリボンをした金色の髪の人形は、青を基調にしたエプロンドレスの上にケープを着ている。

黒翼の女を見る少女は紫色のウェーブのかかった髪に黒い瞳、手には片側の先端に赤い六角形の水晶が付いている杖を手にしている。身に纏っているのは鳥のような青の刺繍が施された白い法衣。

「どんな感じだった?」

紫色の髪の少女は紅の髪の女性に尋ねる。

「後、数日で堕ちるでしょうね。明日にでも接触して少し試させてもらうわ。色々とね」

女性の言葉を聞くと、少女は手にした杖を一回転させて自分の肩に乗せた。

「そう、精神制御魔法を使ったりしたら容赦しないからね。黒翼の魔女」

少女は殺気を込めた視線を女性の背中に刺す。

「あら、小細工を使う貴女に言われたくは無いわね。知識を貪る魔女」

女性の言葉を聞くと、知識を貪る魔女と呼ばれた少女はそのまま何も言わずに姿を消した。

黒翼の魔女と呼ばれた女性は、知識を貪る魔女が消えてからも闇が支配する夜の風景を窓から眺め続けた。

唇に不敵な笑みを浮かべたまま。